マレーシアで仕事をしていた。観光目的で入国してしまったので、業務目的に切り替えるために、毎朝、出入国管理事務所へ交渉に出かけていた。係官は、その変更は無理だから、一旦、シンガポールへ出国してビザを取って来るように言っていた。「たった1時間飛行機に乗れば、それで終わりなんですよ。毎日、来ても無理なんです」。この国は、昔から融通がきかない。 入国の時に、「申告すべきものは何かありますか。武器、麻薬などは持っていませんか」と聞かれた。丁度、日本赤軍が、ハイジャックした飛行機で、マレーシアからリビアへ飛びっ発った直後であった。普段は厳しくない荷物検査も、この時は、ひとつひとつ丹念にやっていた。だいぶ長い間並ばされていたので、「機関銃と大砲を持っています」と答えた。すると、にっこり笑ってすぐに通してくれた。ユーモアのセンスはある。 ビザの切り替えができないと言われると、つい意地になってしまう。シンガポールを往復する方が簡単で、時間も短いとわかっても、始めた以上は、どこまでも・・・。結局は、査証はもらえたのだが(やったぜ!)、その間に、管理事務所で、古い友人に再会できた。長い間、音信不通だった友人が目の前を歩いていた時は、本当にびっくりした。やっぱり、毎日、交渉を続けて、いいことがあったわけだ。 そんなマレーシアへカミさんが来ると言う。ジャカルタへ初めて行った時は、そんな所へ行きたくないと言って、フランスまでル・マン見物に行ってしまったような女が、クアラルンプールまで出てくると言うのだ。 しょうがない。空港まで迎えに行った。既婚の女性が入国すると、その旦那は、どこに居て、何をしているかと、意外にうるさいと聞いていたから、入国する時は、独身にしておけと言っておいた(独身の日本女性なら、アジア諸国どこでもウィンクひとつ)。 いつまで待っても出てこない。昔の空港は、今のターミナルビルとはちょっと離れた位置にあって、階段の途中から、内部が一望できた。中を見ると、彼女が税関職員と話しているのが見えた。他の客は全部出てきても、まだ話している。荷物がもめているのかと思っていた。ようやく出てきた時に聞いたら、独身と言ったために、口説かれていたそうだ。どこのホテルへ泊まる?とか、今晩暇はないか?とか、そんな話しを続けていて、出てこられなかったらしい(アバンチュールを求める人にはお薦めかも)。 迎えに行く前に、ホテルで、カミさんが来ることを話しておいた。従業員は、にっこり笑顔を見せて、「皆様、そうおっしゃいます」と答える。ちょっと待ってくれよ、本当にカミさんなんだよ。「いえいえ問題はございません。私どもは、お客様へのサービスを心がけております。当ホテルでは、プライバシーを大切にしております」。言い争っても仕方がない。ふ~っ、まあいいか。 カミさんとホテルに着いて、宿泊カードを書こうとすると、フロントマンが答える。「わかっております。ちゃんとやっておきます」。にっこりと笑顔とウィンクだ。荷物を運ぶベルボーイも、「旦那も、やるね~」という顔をして、肩で合図を送って来る。(危ない日本人ビジネスマンが多い・・・いや、多かったのだろう・・・私は知らないよ) それなら、考えた。ボーイが、荷物をエレベータに運び込む。私達もエレベータに乗った。ベルボーイがボタンを押して、ドアが閉まった。ベルボーイが、こちらを見ている。そこで、カミさんに向かって言った。「How much?」。これで、誰もが納得できる噂話が完結したはずだ。 しかし、完結は、しなかった。 翌日、カミさんと食事をしていると、ボーイが寄ってきてささやいた。「他にも、良い子が居るよ」。ちょっと!、いいかげんにしてくれよ。 「妻の前で、悪い冗談を言うもんじゃないよ」と言って追い返したが、それだけでは済まなかった。夜中に、「今晩、私ではどうかしら」なんて、色っぽい電話がかかってくることになってしまったのだ。 昨日までは、そんな電話はかかってこなかったのに~、大きな誤解だぁ!!!。本当に、昨日までは、何もなかったんだよ・・・。そう、本当なんだってばぁ~。いや、嘘じゃないよ。本当になんにも・・・。 (*)マレーシアは、食べ物が美味しい国の一つだ。屋台で食べる料理が、実に、日本人好みの味付けなのだ。辛いだろうとか、香辛料が強すぎるだろうと言われるが、そんなことはない。どんな田舎でも、小さな店へ入って、地元の料理を注文すると良い。麺類の味は、ちょっとしたものだ。 マレーシア独自の(多分?)料理に、スチームボーと呼ばれるものがある。スチームボートから来ていると思われるが、海鮮料理のシャブシャブと思ってもらえれば良い。鍋は、日本のシャブシャブと同じ形状をしている。これに、海の幸をたっぷり入れて煮込む鍋料理である。シンガポールでも食べられるし、バンコックだと、ストリップ小屋が並ぶ有名なパッポン通りに1軒、比較的美味しい店がある。このスチームボーだけは、スープが真っ赤になるほどトウガラシが入っているほど旨い。お酒を飲める人なら、ビールを飲みながら、屋外でスチームボーをつまむのが最高だろう。住みやすい国だ。 (*)最近のことだが、マレーシアで区画整理事業の仕事があったので、システム屋の友人を紹介した。彼女のミッションは、区画整理をした後、どこに、どれだけの土地や建物を割り当てるかを公平に計算するというものだった。日本でも同じだが(と言うよりも、日本方式をマレーシアが採用したのだが)、ある一定の地域を開発するために、住んでいる人達が土地を供出する。それらをまとめて、新しい街区や道路、公園を作ったりしながら、土地の再配分を行うのが区画整理だ。ところが、帰国した彼女が、困った問題が起きて仕事にならないと愚痴っていた。どうしたの?と聞いたら、土地の価格など問題ではないというのだ。すべての人が、風水を信じている。風水で、どの場所がいいかが決まるのだそうだ。だから、いくら便利な場所でも、風水が悪いと、全員から拒否される。 そうか。「風水システム」を作れば、マレーシアだけでなく、中国でも売れるパッケージソフトが出来るのではなかろうか。
(情報コーナです)
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